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中の人→しがない大学教員。適度にフィクション。

大学採用教員数と離職教員数の推移(令和元年学校教員統計調査より)

 以下の記事で、令和元年学校教員統計調査確定報告を基に「大学教員になれる確率」を計算した。

 

keizaibakutothesecond.hatenablog.com

 この記事で、大学院重点化以前世代の後半(73年・74年)及び大学院重点化世代の教員数の伸び悩みについて指摘した。

 この疑問が別の角度からの分析により、答えが見つかったぽいので、ご紹介したい。3年に一度実施される学校教員統計調査では、教員個人調査とともに、教員異動調査が行われている。但し、異動調査について調査年の前年度中(直近では2018年度)の異動について悉皆調査が行われている。

 ここでの異動は3種類あり、採用、転入、離職について調査が行われている。採用とは「新たに大学教員に採用されること」を指し、転入は「他の高等教育機関(短大・高専を含む)から転入した」を指し、離職は「大学教員を辞職する(転入(移籍)は含まない、但し定年退職し移籍した場合は、転入と離職両方にカウントされる)」を指す。つまり、大学教員数の動向は、3年毎しかデータが無く不正確であるが、採用と離職の動向を把握することで、ある程度掴める。

 教員個人調査については、年齢別(1歳刻み)だが、教員異動調査は年齢が5歳刻みである。しかし、悉皆調査で年齢区分別(5歳刻み)、専門分野別のデータもある。また、個人調査でも年齢区分別(5歳刻み)の専門分野別の本務教員数のデータがあり、それを併せて分析する。

大学の採用教員数と離職教員数の推移

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年齢区分別大学本務教員「採用教員数-離職教員数」推移

 上表は、年齢区分別大学本務教員における「採用教員数-離職教員数」の推移である。積み上げ棒グラフが各年齢区分における「採用教員数-離職教員数」、折れ線グラフが「採用教員数-離職教員数」の合計である。

 2018年度中の採用教員数は11,494人、離職教員数は13,055人であり、「採用教員数-離職教員数」は、約1500人のマイナスである。異動調査では2000年度以降、6回連続で採用教員数を離職教員数を上回っている。

 年齢区分別にみると、25歳未満、25歳以上30歳未満、30歳以上35歳未満は採用教員数が離職教員数を上回っており、それ以外の年齢区分では下回っている。前回の記事で教員数が伸び悩んでいると指摘した大学院重点化以前世代後半(45歳以上50歳未満)、大学院重点化世代(40歳以上45歳未満)も離職教員数が採用教員数を上回っている。

 今回令和元年の調査に至るまで、大学本務教員数は増加を続けているので、この異動調査の結果とは、矛盾が生じている。理由としては、①異動調査が3年毎であること(採用教員数が離職教員数を上回る年がある可能性)、②異動調査と教員個人調査は年度が異なること、それにより教員個人調査の調査年(10月1日時点)の大学本務教員数には当該年採用教員数が含まれているが、離職教員数は年度末が多数であるためカウントされていない、③高専、短大からの転入者の存在(割合は転入者数の5%程度)等が考えられる。いずれにせよ、大学本務教員数は微増傾向から将来的には減少に転じる可能性が高い。

専門分野別の採用教員数・離職教員数

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専門分野別大学本務教員採用数


既に離職教員数が採用教員数が上回っている現状をみたが、専門分野別の動向も確認したい。年齢区分別専門分野別の大学本務教員採用数の推移は以下の通り。

 ここでその他は人数が少ない「芸術、商船、家政、その他(分類不明)の合計」を指す。黄枠で囲った部分は、1988年度以降の専門分野別の過去最多を表す。2018年度の採用教員数は、11,494人と2015年度と比べて約600人減少した。

 一目瞭然であるが、採用教員数に占める「保健」の割合が圧倒的に高く5割を超えている。「保健」の本務教員採用数は2018年度では5,924人と、2015年度と比べて約400人減少したものの、基本的に増加傾向にある。また、「教育」も近年採用教員数が増加傾向にあり、2018年度に最多(802人)を記録した。

 一方で、それ以外の分野では、採用教員数は横ばい傾向にある。「理学」と「農学」は2015年度の採用教員数が最多であるが、「人文科学」と「社会科学」は2000年度、「工学」は2000年度がそれぞれピークに減少傾向となっている。

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専門分野別大学本務教員「採用教員数-離職教員数」推移

上の表は、専門分野別大学本務教員における「採用教員数-離職教員数」の推移である。年齢区分別でもみたように、近年離職教員数が採用教員数を上回っており、2018年度中の採用教員数は11,494人、離職教員数は13,055人であり、「採用教員数-離職教員数」は、約1500人のマイナスである。

 専門分野別でみても、2018年度は「教育」、「その他」以外は離職教員数が採用教員数を上回っている。採用教員数の5割以上を占める「保健」においても、2012年度の調査以降は離職教員数が採用教員数を上回っている。

専門分野別教員数の動向

 採用動向において、「保健」の教員数が全体の半数を超える規模であることを確認したところで、教員個人調査における専門分野別の大学本務教員数の推移をみたい。

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専門分野別大学本務教員数

 1989年と比べて、大学本務教員数は約6万人増加して185,918人となった。分野で最多なのは「保健」であり、1989年と比べて約3万人増加して、過去最多の67,709人と全体の3分の1以上を占めている。一方で、「教育」以外の各専門分野の教員数は、2000年以降横ばいである。

 折れ線グラフの「保健」、「人文科学+社会科学(人文・社会)」、「理学+工学+農学(理・工・農)」の教員構成比をみると、「理・工・農」の教員構成比は、1995年をピークに、「人文・社会」の教員構成比は2004年をピークに減少に転じ、直近では「理・工・農」が25.6%、「人文・社会」が25.0%まで減少した。一方で、「保健」の教員構成比は増加の一途であり、2019年は36.5%まで上昇した。

 この30年の間に「理・工・農」、「人文・社会」が教員数が横ばいで構成比が減少傾向である一方で、「保健」は教員数、構成比とも上昇傾向にある。

定年を除いた離職教員数の推移

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年齢区分別離職教員数(定年除)

上の表は、定年離職を除いた離職教員数の推移である。年齢区分の「30歳以上35歳未満」、「35歳以上40歳未満」、「40歳以上45歳未満」の若手で過半数を占め、近年「40歳以上45歳未満」の人数が上昇傾向にある。

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専門分野別離職教員数(定年除)

 一方でこちらの表は、定年を除いた専門分野別離職教員数である。圧倒的に多いのが「保健」分野であり、2018年度で全体の6割弱の約5,700人を占める。「人文・社会」は約1,400人、「理・工・農」は約1,300人であり、合計で3割弱を占めるが、ほぼ横ばいで推移している。

 両グラフをまとめると「30歳以上35歳未満」、「35歳以上40歳未満」、「40歳以上45歳未満」の若手で、「保健」が定年を除いた離職教員数の過半を占めることになる。

「保健」の大学本務教員数の推移

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年齢区分別大学本務教員数(保健)

 上表は、「保健」の年齢区分別大学本務教員数の推移である。既に述べた通り、「保健」の大学本務教員数は、30年間で約3万人増加した。年齢区分別でみると、「保健」は一貫して「30歳以上35歳未満」、「35歳以上40歳未満」、「40歳以上45歳未満」の若手教員のウェートが高い(黄枠が当該年最多の年齢区分を表す)。次回の記事で述べるが、大学本務教員は全体として高齢化が進んでおり、「保健」の動向だけ全体の傾向と異なっている。若手教員のウェートが一貫して高いということは、既に見たとおり若手教員が大量に採用されていることに加え、しばらくして若手教員の多くが離職していることを表している(もし、働き続けていれば、45歳以上の教員のウェートがもっと高くならなければ辻褄が合わない)。実際、他の専門分野では、「40歳以上45歳未満」、「45歳以上50歳未満」の教員数は経年的に増加しており、若手教員のウェートが高止まりする傾向は見られなかった。

 このように、「保健」の大学本務教員数だけ全体のトレンドと乖離しているのは、「保健」分野に多くの実務家教員が在籍していることが関係していると思われる。

取りあえずのまとめ

  採用教員数と離職教員数のデータを基に、大学院重点化以前世代後半、大学院重点化世代の教員数の伸び悩みの原因を探ってみた。どうやら主因は「保健」分野の教員の大量採用、大量離職にありそうだ。「人文・社会」、「理・工・農」の離職者も増えており、任期付教員の任期切れ等の影響もあるが、相対的には小さいと思われる。

 今回分析をしてみて、「保健」以外の専門分野では、教員の構成等かなり様相が異なっていることが判明した。次回は、専門分野別の教員構成を中心に分析する予定である。