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中の人→しがない大学教員。適度にフィクション。

専門分野別年齢区分別大学教員数の推移

 夏ですね。

 ということで、記事は前回の続きで、専門分野別年齢区分別大学教員数の推移(1989年度~2019年度)を紹介したい。前回、保健分野の年齢区分別教員数についてご紹介した。詳細は以下参照されたい。

 

keizaibakutothesecond.hatenablog.com

  今回は、保健以外の分野の年齢区分別教員数の推移を紹介する。前回記事でも少し書いたが、保健以外の分野では教員数の伸び悩み、高齢化がみられる。

大学本務教員数の動向

 分野別の動向の前に、大学本務教員数全体の動向及び年齢区分の動向について確認したい。

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専門分野別大学本務教員数

 既にご紹介した1989年度から2019年度までの専門分野別大学本務教員数の推移である。大学本務教員数は、1989年度の121,105人から、2019年度の185,918人と約6.4万人増加した。しかし、全ての専門分野が増加している訳ではなく、工学は2004年度、人文科学は2007年度から減少に転じている(専門分野ごとの最高値が黄枠で表されている)。1989年度から増加人数では、保健が約3.0万人増加で全体の増加分の半分を占め、次いで社会科学が約1.0万人増加、工学が約0.6万人増加、教育が約0.5万人増加となっている。

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年齢区分別大学本務教員数

 次に年齢区分別の大学本務教員数を見ていく。大学本務教員の平均年齢は、1989年度の45.9歳から2019年度の49.4歳へ約4歳上昇した。年齢区分別の教員数を見ていくと2019年度は「45歳以上50歳未満」が約2.8万人で最多(各年度黄枠で囲われている年齢区分)だが、それ以前は「40歳以上45歳未満」が最多な年度が多く、40歳代の本務教員が多い(2019年度の全体に占める割合は約30%。なお50歳代は約29%、30歳代は約19%となっている)。

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年齢区分別大学本務教員数(保健除合計)

 しかし、前回の記事で紹介したように、保健の教員の年齢構成は特殊(実務家教員が多く、短期間で大量採用、大量離職を繰り返している)であり、保健分野を除くと、最多人数の年齢区分は、2016年度、2019年度は「55歳以上60歳未満」、2013年度は「60歳以上65歳未満」と年齢区分の構成が保健と比べ高くなっている。

人文科学・社会科学

人文科学

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年齢区分別大学本務教員数(人文科学)

 既に述べた通り、人文科学の大学本務教員数は2007年度をピークに減少しており、2019年度の本務教員数は、1989年度比約0.3万人増加の22,584人であった。21世紀に入り本務教員数は2.2万人前後で横ばい傾向にある。

 一方で平均年齢は、2019年度は52.1歳となっており、全体の平均年齢より3歳程高い。年齢区分別の教員数は、「60歳以上65歳未満」が最多となっており、高齢化を裏付ける結果となっている。また「65歳以上」の教員も2,175名と10%弱存在する。

 また、「30歳以上35歳未満」、「35歳以上40歳未満」の30歳代の若手教員が年々減っており、1989年度比で約1千人減少している。若手教員の減少傾向が続いており、人文科学の教員数は減少傾向が続くと思われる。

社会科学

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年齢区分別大学本務教員数(社会科学)

  社会科学は、既に述べた通り比較的本務教員数が増加している分野であり、2019年度の本務教員数は23,659人で、1989年度比で約1.0万人増加した。人文科学と比べると1989年度では約5.6千人少なかったが、2010年度に逆転し、2019年度は約1.0千人多くなっている。

 平均年齢は、52.1歳と全体より3歳弱高くなっている。社会科学は65歳以上の教員が2019年度で2,733名と全体の10%を超えており、これが平均年齢を押し上げていると考えられる。

 年齢区分別では、2010年度では「60歳以上65歳未満」が最多であったが、徐々に若返りが進み、2019年度では「45歳以上50歳未満」が最多となっている。一方で、「30歳以上35歳未満」の教員数は1989年度水準を下回っており、「35歳以上40歳未満」の教員数も2010年度をピークを減少し、2019年度は1,966人と2,000人を割り込んだ。

 人文科学程高齢化は進んでいないものの、30歳代の若手教員は人数、割合とも低下傾向であり、予断は許さない状況にある。

 自然科学(工学・理学・農学)

工学

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年齢区分別大学本務教員数(工学)

 工学の本務教員数は2019年度は25,524人と1989年度比で6千人増加した。既に述べた通り、2004年度をピークに本務教員数は減少傾向にあり、近年は2.4~2.5万人台で推移している。

 平均年齢は、全体とほぼ同じの49.5歳。1989年度比で約2歳程上昇した。

 年齢区分別で最多なのは2019年度では「45歳以上50歳未満」となっている。2019年度の30歳代の教員は1989年度と比べると増加しているが、「35歳以上40歳未満」は最多だった2007年度の3,844人と比べて約1.1千人、「30歳以上35歳未満」は同じく最多だった2001年度の3,412人と比べて約1.4千人減少した。

理学

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年齢区分別大学本務教員数(理学)

  理学の本務教員数は、1989年度と比べて約1.4千人増加して、2019年度は15,082人となった。教員数は約10%しか増加しておらす、近年は1.5万人程度で横ばいとなっている。

 平均年齢は、49.4歳で全体とほぼ同じである。1989年度と比べ約2歳程上昇した。年齢区分別では「45歳以上50歳未満」が最多であり、30歳代、40歳代が全体に占める割合が一貫して多い。若手教員の割合が一貫して多いということは、年齢が上がった段階で少なからぬ教員が離職していることを示唆している。

 工学や理学は、任期付教員が人文・社会科学に比べて多く、このデータだけでは判別出来ないが、50歳を前にテニュア獲得の選別が行われている可能性もあるのかなと思う。

農学

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年齢区分別大学本務教員数(農学)

 2019年度の農学の本務教員数は、6,981人で1989年度比で約千人増加した。

 平均年齢は50.1歳で全体よりやや高めである。1989年度比で約2歳上昇した。年齢区分別にみると、2019年度は「50歳以上55歳未満」が最多である。30歳代の若手教員が全体に占める割合は他分野と比べると低めであり、1989年度と比べて約100人程度減少している。

保健・教育

保健

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年齢区分別大学本務教員数(保健)

 保健は既にご紹介した通り、1989年度比で約3万人本務教員数が増加し、2019年度は67,769人となっている。

 平均年齢は46.7歳で全体平均より2歳程低い。また、年齢区分別では30歳代、「40歳以上45歳未満」の若手教員の割合が一貫して高いという特徴がある。2016年度から「40歳以上45歳未満」が最多となっている。

 若手教員が多く、50歳以上の教員が少ないのは、実習指導等で実務家教員が多く採用されていること、そして実務家教員(特に保健分野の資格を持っている教員)は現場と大学を出入りする(採用されて離職する)ことが、他分野に比べると多く見られるのが原因と推測するのは前回の記事と同様である。

教育

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年齢区分別大学本務教員数(教育)

  2019年度の教育の大学本務教員数は、1989年度比5.4千人増の12,779人となった。教育学部・学科の増設等により本務教員数は1989年度比1.73倍となっている。

 平均年齢は52.6歳で全体より3歳程高くなっている。年齢区分別では2007年度以降「60歳以上65歳未満」が最多となっている。保健と同様に実務家教員が多い分野であり、小中高教員経験者の(定年後)採用がこのような年齢構成の要因であろう。

 本務教員数が増加している(教員需要が多い)分野にも関わらず、30歳代の若手教員は1989年度比で約100人しか増えていない。また、65歳以上の教員も多く(本務教員数が倍以上いる工学より人数が多い)、平均年齢は高めのまま推移することが予想される。

まとめ

 1989年度と比べて2019年度の大学本務教員数は、53.2%の増加であった。この増加率を上回ったのは、保健(82.6%増)、社会科学(77.3%増)、教育(73.9%増)であった。保健を除いた合計でみると、1989年度比で2019年度の大学本務教員数は40.4%の増加であった。人文科学(18.3%増)、工学(30.6%増)、理学(10.7%増)、農学(16.9%増)はいずれも下回った。よって、大学本務教員数の増加を支えていたのは、保健、社会科学、教育の3分野ということになる(その他は2倍以上に増えているが、割愛する)。

 2019年度の年齢区分別大学本務教員数をみると、1989年度比で増加しているのは、35歳以上の教員で、「30歳以上35歳未満」の教員は、1989年度比で▲14.9%の減少(保健を除くと▲27.9%の減少)となっている。一方で、同じく1989年度比で「50歳以上55歳未満」は110.3%、「55歳以上60歳未満」は96.3%、「60歳以上65歳未満」は132.5%増加している。既にご紹介した通り平均年齢は30年間で約3歳上昇し、若手教員は数、構成比とも減少し、高齢教員は逆に数、構成比とも増加している。よって、日本の人口構成と同様に大学本務教員の高齢化が進行している。