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中の人→しがない大学教員。適度にフィクション。

大規模私立大学(募集定員3,000人以上)の募集定員の推移

 夏休みの自由研究です。

 昨年末に私立大学の定員割れの記事を書いた。私立学校振興・共済事業団の「私立大学・短期大学等入学志願動向」を基に、私立大学、特に大規模私立大学のここ10年の「定員拡大→合格者増加→歩留率低下」について分析した。

keizaibakutothesecond.hatenablog.com

既に2022年度入試のデータも出ているので、上記記事も時間があれば更新したい。一見した感じでは、傾向は然程変わっていないように思う。今回は、2021年度段階で募集定員3,000人以上の大規模私立大学(25大学)の個別動向について、定員の推移、一般入試定員の推移、2021年度の定員充足率を基に見ていく。

大規模私立大学の募集定員の推移

 私立学校振興・共済事業団の定義によれば、募集定員3,000人以上が最大のカテゴリー(前記事では大規模大学と称した)であり、2016年までは23校、2017年から24校(京都産業大学が3,000人超え)、2021年からは25校(中京大学が3,000人超え)となった。

大規模私立大学定員推移(2011-2021)

 上表は、大規模私立大学の2011年度から2021年度の募集定員の推移である。データは、大学設置・学校法人審議会の各年の「私立大学等の収容定員の増加等に係る学則変更予定一覧」より抽出。なお、この数字には編入学生は含まれていない。便宜的に募集定員5,000人以上と3,000-5000人の大学を分けて掲載している。2011年度から2021年度にかけて、合計で約1.2万人増加している。

大学別定員増加数・増加率(2021/2011)

 上表は、2021年度対2011年度の大学別定員増加数及び増加率である。

 大規模私立大学25校全体の定員増加率は、8.7%である。うち12校は増加率が全体平均を下回っている。慶應義塾、専修の両大学は募集定員が増えておらず、東海大学は募集定員が減少している。早稲田、関西、帝京、神奈川の各大学も募集定員の増加は100人以下にとどまっている。

 一方で、1,000人以上定員を増加させた大学が日本、近畿、明治、東洋の4校、500人以上定員を増加させた大学が5校(立命館、法政、中央、青山学院、京都産業)ある。

 大規模私立大学の募集定員は全体としては拡大傾向であったが、その規模と方向性は大学によりかなり異なることが確認できる。

入試の方向性と定員充足率

一般入試・推薦入試

定員増加率-一般入試定員増加率(2021/2011)

 上表は、総募集定員の増加率(X)、一般入試定員増加率(Y)をプロットしたものである。2021年度と2011年度の一般入試定員は、螢雪時代「全国大学受験年鑑」による。基本的には、総募集定員が増加すれば、一般入試定員も増加する関係が想定される。総募集定員を30%以上増加させた京都産業大学は一般入試定員も38%増加させている。龍谷、近畿の2校は一般入試定員は20%以上の増加、いずれも総募集定員の増加率を上回っている。一方で、一般入試募集定員の増加率がマイナスなのは5校(法政、早稲田、帝京、慶應義塾、駒澤)であり、立教、東洋、東京理科の3校は総募集定員は10%以上増加に対して、一般入試定員は、立教は5.7%、東洋は4.0%、東京理科は2.1%の増加に留まっている。

 総募集定員の伸びに対して、一般入試募集定員の伸びが鈍いのは、一般入試以外の選抜手段、すなわち推薦入試のウェートが高まっていることを示している。

定員充足率

定員増加率-2021定員充足率

 次に、総募集定員の増加率(2021/2011・X)と2021年度入試における定員充足率(Y)の関係をみる。定員充足率は2021年度の大学別の入学者数を同総募集定員で割ったものである。なお、入学者数のデータはパスナビによる。定員増加率と定員充足率については有意な関係はみられなかった。前記事で述べたように、大規模私立大学は全体としては2019年度から3年度連続で定員充足率は100%を下回っている。2021年度は、福岡、中央、同志社、東海、立教の5校が定員充足率100%を下回っている。

 なお、前記事で分析したが、この10年間で入学者数は緩やかであるが減少傾向である。3,000人以上の大規模私立大学25校の入学者数は2011年度は144,208人で、2021年度は149,308人であった。約5,000人増えているが、これは対象校が2校増加(既に述べたように、京都産業大学中京大学が追加されている)となったことが大きい。2021年度において上記2校の入学者数を差し引いた23校(2011年度段階で募集定員3,000人超)の入学者数は142,298人で2011年度比で約1,900人減少している。

 定員超過規制の影響もあり、定員充足率が105%を超える大学は、龍谷、名城、帝京、近畿の4校にとどまる。12校が100-102%の間に入学者数を抑えており、定員超過規制の実効性は高いと考えられる。

とりあえずのまとめ

 既に見てきた通り18歳人口減少への対応としては、募集定員を増加させる大学と募集定員を減少ないし微減に抑えてきた大学に分かれる。

 今後、18歳人口の減少が加速し、大学学部進学率の頭打ちが予測される中で、推薦入試の重要性はますます高まると予想される。一般入試における選抜の実効性が下がる(歩留率の低下→合格者数を増加させないと、定員を満たすことが出来ない)ことを見越して、実際、高大接続改革の一貫で、多くの大規模私立大学が附属校、系属校の拡充に力を入れており、このことを裏付けている。一方で定員超過規制の中で、募集総定員、一般入試定員をともに増やして、減少傾向にある入学者数の維持を図る大学もあり、各大学の戦略の成否に注目したい。