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中の人→しがない大学教員。適度にフィクション。

大学教員になれる確率(令和元年学校教員統計より)

 昨年末に学校教員統計調査の令和元年(2019年)版の中間報告が出たので、過去の記事を更新したい。3月に確定報告が出たので、図表を貼り替えました。詳細は、以下参照。

 

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大学本務教員数

 令和元年度の大学本務教員数は、185,918人であり、平成28年度の184,273人と比べて、約1,600人弱増加した。男女別にみると、男性は138,724人と約1,800人減少女性は47,194人と約3,400人増加した。この傾向は過去記事と同様です。

 

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 年齢別の大学本務教員数

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大学本務教員数(3N歳 1968年、71年、74年、77年、80年、83年、86年生)

 

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大学本務教員数(3N-1歳 1969年、72年、75年、78年、81年、84年、87年生)

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大学本務教員数(3N-2歳 1970年、73年、76年、79年、82年、85年、88年生)

 表の見方であるが、年代ごとの大学本務教員数の伸び(=折れ線グラフの傾き、3年前と比べて、同年代の教員がどれだけ増えたか?)に注目して欲しい。前回の記事では 

「重点化世代の前半は以前世代よりは30歳代の教員数は少ないものの、40歳を迎えて教員数では以前世代を凌駕している。」と書いたのだが、特に重点化世代前半の教員数の増加率が3年前と比べて鈍化している。

読み取れる傾向としては以下の通り。

① 大学院重点化以前世代(太点線、1999年以前に標準的な進路で博士課程入学した世代、1968年~1974年生)は、緩やかに増加ないし微減。ただし、以前世代の後半(73、74年生)において、伸び悩みが見られる。

② 大学院重点化世代(太線、2000年から2006年に標準的な進路で博士課程入学した世代、1975年~1981年生)も同様に教務員数が伸び悩んでいる。特に大学院重点化世代前半が著しく伸び悩んでいる。75年生は44歳で僅かながら教員数が減少に転じている。76年生も73年生に40歳の段階で上回っていたにも関わらず、43歳では73年生に約170人の差をつけられ逆転されている。77年生も同様に39歳の段階で74年生を約130人上回っていたのが、42歳で約130名の差で逆転されている。

③ 大学院重点化以降世代(細点線、2007年に以降に標準的な進路で博士課程入学した世代、1982年生以降)は大学院重点化世代を下回る教員数で依然として推移している。

 特に大学院重点化世代前半の教員数伸び悩みは意外であり深刻である。世代ごとの大学本務教員数は合計の人数なので、個人の異動の中身までは分からない。3年前と比べて僅かながら減少に転じた75年生は、例えばこの3年間に多くの研究者が海外に移籍した…等の理由によるのかもしれないが、普通に考えると任期制教員が任期切れで教員でなくなった等大学の雇用環境が影響していると思われる。

 そして、大学院重点化以降世代も教員数が伸び悩んでいる。この世代は博士課程入学者数は重点化世代と比べると少なめで、競争が緩いはずなのだが、教員数は大学院重点化世代を下回っている。84年生は35歳の段階で、4,000人を割り込み、81年生の35歳時の人数を約300人下回っている。各年代とも重点化世代より200~300人程度本務教員数が少ない。

大学教員になれる確率(大学本務教員数/博士課程入学者数)

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大学本務教員数/博士課程入学者数(3N歳)

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大学本務教員数/博士課程入学者数(3N-1歳)

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大学本務教員数/博士課程入学者数(3N-2歳)

 年代別の大学本務教員数を標準的な年度の博士課程入学者数で割った「大学教員になれる確率」をみると、大学本務教員数以上に大学院重点化世代の伸び悩みが顕著である。この3年間で本務教員数が微減した1975年生は41歳時点より44歳時点で確率が下がり、76年生以降も大学院重点化以前世代との差が拡大している。78年生は41歳時点で、79年生は40歳時点で、3割を下回っている。

 大学院重点化以降世代は重点化世代を上回っている年代(83、84、87、88年生)と更に下回っている世代(82年、85年)に分かれる。この年代が今後どのように推移していくかは注目される。

取り敢えずのまとめ

 大学院重点化世代の大学本務教員数が伸び悩んでいることは、前回の分析では想像がつかず意外であった。原因は、任期制教員の任期切れくらいしか考えつかないのだが、大学院重点化以前世代とそれ以降では、教員の雇用環境が構造的に異なるのかもしれない。

 若手である大学院重点化以降世代が以前世代のような水準には戻りそうもないのは、大学の将来を考えると厳しい。「分野別大学教員になれる確率」でも示したが、就職が厳しい分野の博士課程大学院生が減少傾向にある中で、研究の衰退に繋がりかねない(というか、そういう方向に着実に向かっている気がしてならない)。