女性は研究者(大学教員)になりづらいのか?データから考える。
授業も終わってようやく時間が取れるようになったので、前から気になっていたことを過去記事の出涸らしで書いて見ようと思った次第。
今回の記事の出発点は、もう殆どの方は忘れてしまったかもしれませんが、今年の東京大学の入学式の上野千鶴子氏の祝辞です。
学部においておよそ20%の女子学生比率は、大学院になると修士課程で25%、博士課程で30.7%になります。その先、研究職となると、助教の女性比率は18.2、准教授で11.6、教授職で7.8%と低下します。これは国会議員の女性比率より低い数字です。女性学部長・研究科長は15人のうち1人、歴代総長には女性はいません。
このデータは東京大学のものだと思いますが、日本全体ではどうだろう?ネット上で利用できるデータを利用して分析してみました。
直感的に言うと、女性の研究者は、採用等に関して男女共同参画社会の要請を受け、ある意味優遇されているのかもとも思うのですが、実際はどうなのか?
分析方法は、前2回の記事と同じです。ご参照頂ければ。
keizaibakutothesecond.hatenablog.com
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1.大学院博士課程入学者数の推移
まず、最初に大学院博士課程入学者数の推移を見ていきたい。平成元(1989)年度から、平成31(2019)年度までの男女別の大学院博士課程入学者数の推移と女性の割合を図示したものである。
1989年度に7,478人だった博士課程入学者数は、2000年度には17,000人を超えた。これは1990年代後半から始まった大学院重点化の影響を強く受けており、特に網掛けをしている2000年度から2006年度は、博士課程入学者数が17,000人を超え、ピークの2003年度には18,232人となった(この世代を「大学院重点化世代」と呼ぶことにする)。
その後、大学院博士課程入学者数は緩やかに減少し、2016年度には15,000人を割り込んだ(14,972人)。ここまでは前々回の記事で既にご紹介した通り。
一方で、男女別の博士課程入学者数を見ると、大学院重点化以前の世代(1989年度から1999年度まで)から基本的に増加し続けて、男性の入学者数は、2003年度にピーク(13,052人)を迎えた。一方で、女性の入学者数は、2004年度にピーク(5,249人)を迎えたものの、男性の入学者数に比べて減少幅は少なく、大学院博士課程入学者数に占める女性の割合は一貫して上昇傾向にあり、2019年度には、32.4%を記録した。
かつて、家政等の一部の分野を除けば、少数派であった分野別の男女比率も大きく変化している。理学、工学等の理系分野は依然として、女性/男性の比率が0.2を下回る(女性1人に男性5人以上)が、農学や社会科学は、女性/男性の比率が0.5を上回り(女性1人に男性2人以下)、人文科学や教育学等では、女性の入学者数が男性を上回っている(データはいずれも平成30年度学校基本調査)。
依然として女性の博士課程入学者は少数派ではあるが、平成の初めと比べると、(人数的にも、相対的にも)研究者を目指す女性が増えたことは間違えないところではあろう。
2.大学教員への登用
大学院博士課程を修了、満期退学後の進路として、代表的なものは研究職、中でも研究と教育が本業である大学教員である。前々回の記事同様、ここでは生年別性別の「大学本務教員数/大学院博士課程入学者数」を計算し、大学教員になれる確率を求めたい。
ここでは、大学院重点化世代を区切りと考え、「大学院重点化以前世代」(1967年~1974年生、標準的な大学院博士課程入学年度が1992年度~1999年度)と「大学院重点化世代とそれ以降の世代」(1975年~1984年生、標準的な大学院博士課程入学年度が2000年度~2008年度)に分けて考察したい。なお、統計の扱い等詳細な点は、前々回の記事「大学教員になれる確率」を参照されたい。
大学院重点化以前世代
上図は、1967年~1974年生の男女別の大学教員になれる確率(大学本務教員数/大学院博士課程入学者数)を示したものである。各生年とも実線が男性(M)、点線が女性(W)を表している。
既にご紹介した通り、大学院重点化以前世代は、博士課程入学者数が少なく、大学教員になれる確率が高かった世代である。
その中で、男性と女性を比べてみると、各生年とも女性の確率(大学本務教員数/大学院博士課程入学者数)が男性を上回っていることが分かる。
正直、この結果は意外である。冒頭の上野千鶴子氏の祝辞の通りであれば、大学教員になれる確率も男性が上回っていそうではあるが。
残念ながらこれ以上の分析は出来ないが、大学院重点化以前世代の女性院生は、入学者は少ないが、高い確率でアカポスをゲットする少数精鋭であったようである。
大学院重点化世代とそれ以降の世代
上図は、同様に1975年~1983年生の男女別の大学教員になれる確率(大学本務教員数/大学院博士課程入学者数)を示したものである。各生年とも実線が男性(M)、点線が女性(W)を表している。
大学院重点化世代及び以降の世代は、博士課程入学者数が大幅に増加し、30歳代前半における大学教員になれる確率は低いものの、30歳代後半からは層の厚みにより大学本務教員数が大幅に増加し、大学院重点化以前世代を凌駕している。
女性は30歳代前半までは、大学院重点化以前世代と同様、大学教員になれる確率で男性を上回っている。しかし、30歳代後半以降は、男性が急伸し、女性を逆転している生年が多い。但し、差があるといっても数%であり、1975年生は、41歳の段階で男性を上回っており、男女間の顕著な差は見られない。
3.大学教員数の推移
2.の大学教員への登用状況を踏まえて、男女別の大学教員数の推移をみたい。
上図は、1989(平成元)年から2019(令和元)年の男女別の大学本務教員数と全体に占める女性の割合を示している。
大学本務教員数は、1989(平成元)年の121,140人から、2019(令和元)年の187,876人と約66,000人増加した。内訳をみると、男性は1989(平成元)年の110,278人から2019(令和元)年の140,253人と約3万人増加したのに対して、女性は1989(平成元)年の10,862人から2019(令和元)年の47,623人と約3.6万人増加した。
さらに、大学本務教員数自体は増加を続ける中で、男性本務教員数は2014年以降14万人台で横這いであり、2019(令和元)年は前年から僅かながら減少した一方で、女性本務教員数は増加し続け、2014年以降の5年で5,000人以上増加している。
このような女性本務教員数の増加を受け、全本務教員数に占める女性教員の割合は1989(平成元)年の8.97%から2019(令和元)年は25.3%までに増加した。
4.大学教授への登用
博士課程院生、本務教員とも女性の割合は増加傾向にあり、本務教員の登用については男女格差は認められなかった。研究者として生活するために、博士課程院生になることが最初の関門だとすると、本務教員になることは第二の関門、最終的なゴールが大学教授と言えよう。先の上野千鶴子氏の祝辞では男女格差があると指摘していたが、実際はどうであろうか?
上図は、2016年における36歳(1980年生)から49歳(1967年生)の男女別の大学教授人数/大学本務教員数である。全体的に男性より女性の方が、大学教授への昇進確率が低い。
しかし、前回の記事でも指摘したように、50歳代後半になれば9割方大学教授へ昇進している現状からすると、昇進確率が低い原因は昇進の遅れと考えられる。昇進が遅れている原因として、結婚、出産、育児の影響が大きいのではと推察する。
また、男女別の大学教授人数の推移を見ると以下の通りになる。
上図は、1989(平成元)年から2019(令和元)年の男女別の大学教授の人数と全体に占める女性の割合を示している。
大学教授の人数は、1989(平成元)年の42,498人から、2019(令和元)年の69,833人と約27,000人増加した。内訳をみると、男性大学教授は1989(平成元)年の40,450人から2019(令和元)年の57,706人と約17,000人増加したのに対して、女性大学教授は1989(平成元)年の2,048人から2019(令和元)年の12,127人と約1万人増加した。
近年大学教授の人数は、2014年以降69,000人から70,000人の間で横這い傾向であり、男性大学教授の人数は2010年の60,633人をピークに減少傾向にあり、2019(令和元)年は4年連続で減少しピークから3,000人弱減少した。一方で、女性大学教授の人数は増加し続け、2014年以降の5年間で2,000人以上増加している。
また、全大学教授の人数に占める女性教員の割合は1989(平成元)年の4.82%から2019(令和元)年は17.37%までに増加した。
5.女性は研究者(大学教員)になりづらいのか?
上野千鶴子氏の東京大学の入学式祝辞をきっかけに、大学教員になれる確率の男女格差について考えてきたが、東大はともかく、日本全体の大学教員への登用の割合で男女格差は見られなかった。
また、本務教員数、大学教授の人数については男女格差があるものの、女性の本務教員数、大学教授の人数、全体に占める女性の割合は増加の一途である。現状、格差があるとは思うが、少なくとも改善の方向に向かっていることは間違いない。
唯一、大学教授への昇進確率(年齢別男女別の大学教授人数/大学本務教員数)については格差があった。それについては、結婚、出産、育児が影響しているというのが本論の見立てである。大学教員になれる確率に対しても影響を与えていると考えられるので、その影響を除くと男女格差は殆どないのではと思う。
むしろ、今まで見てきたように、女性の研究者、本務教員数、大学教授は相対的に増加傾向にあり、これまで以上に男女格差は縮小する可能性が高い。将来、東大にも女性学長が誕生しても全く不思議は無いと思うのだが、如何だろうか?